弁理士として独立開業し、気付いたことを綴っていきたいと思います。 テーマを決めて、一話完結形式で記していく予定です。
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第18話
立体的形状は、意匠登録出願することも可能であり、立体商標として登録出願することも可能です。
意匠権は人間の精神的活動による創作物なので、登録には新規性及び創作非容易性が要求され、権利期間も有限(出願日から25年)です。
これに対し、商標権は保護対象が営業上の信用なので、使用による周知性が要求され、権利期間は更新登録により半永久的です。
このことについて、知財高裁は、以下の判示をしています。
「商標権は、存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができることを踏まえると、実用新案権や意匠権の対象となっていた立体的形状について商標権によって保護を与えることは、実用新案法や意匠法による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じかねず、事業者間の公正な競争を不当に制限することになる。したがって、実用新案権や意匠権の対象となっていた立体的形状について権利による独占とは無関係に自他識別力を取得した等の特段の事情の認められない限り、使用による自他識別力を取得したと認めることはできない。」(知財高裁平成29年(行ケ)第10155号同30年1月15日判決)
近時、この「使用による自他識別力を取得したと認める」特段の事情が認められ、シン・ゴジラの立体商標が認められました。
「ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度」を前提に、「本願商標は商標法3条1項3号に該当するものの、本願商標については、その指定商品に使用された結果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができるので、同条2項に該当する。」(知財高裁令和6年(行ケ)第10047号同6年10月30日判決)
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第17話
無体財産権(知的財産権)には、人間の精神的活動の結果生じた創作物に対する権利と、営業上の信用に対する権利があります(基本法学3財産281頁、「無体財産権」中山信弘)。
人間の精神的活動の結果生じた創作物には、特許権、実用新案権、意匠権があります。営業上の信用に対する権利には、商標権があります。
商標権は、特許権等と異なり、商標権者からの商標法38条2項に基づく損害賠償請求に対して、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができます(最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集第51巻3号1055頁)。
すなわち、商標権の保護対象は、商標そのものではなく、商標に化体した営業上の信用なので、商標登録されても、それだけで権利行使が認められるわけではありません。これについて、最高裁は、以下の解説をしています。
「特許権、実用新案権のような権利の場合と、商標権の場合とでは、異なった考慮をする必要がある。すなわち、特許権、実用新案権等の場合には、それ自体が創作的価値を有するものであって、その侵害品は、その性能、効用等において特許権等を利用したものであるから、侵害品の売上げの中には必ず特許権等の対価に該当する部分がある。また、侵害品が売れたということは当該特許権等の実施品についての需要が存在するということを意味するものであるし、そもそも侵害品が販売されているということ自体が、当該特許権等の実施権設定についての需要が存在するということを意味するものといえる。
これに対して、商標権の場合は、それ自体は創作的価値を有するものでなく、商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付いて初めて一定の価値を有するものである。すなわち、商標を付した商品が売れたからといって、直ちに当該商標が売上げに寄与したということにならないし、商品が売れたということで当該商標についての使用許諾を求める需要が存在するということを意味するものでもない。」(同判決、最高裁判所判例解説 民事篇 平成9年度 (上) 370頁)
商標権は、特許庁における商標登録と、その商標が実際に使用されて営業上の信用が化体していることの両方の要件を満たさないと、権利行使できません。
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第16話
メリヤス編機事件(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集第30巻2号79頁)とシェトワ事件(最高裁昭和63年(行ツ)第37号平成3年4月23日第三小法廷判決・民集第45巻4号538頁)とは、矛盾するのではないかという指摘があります。矛盾するとすれば、いずれが原則でいずれが例外かということになります。
従来の最高裁の判断は、「原審が事実審である以上、審判の際主張されなかつた事実、審決庁が審決の基礎としなかつた事実を、当事者が訴訟においてあらたに主張することは違法ではない」(最高裁昭和26年(オ)第745号同28年10月16日第二小法廷判決・集民10号189頁)。
「本件審判における争点に関する限り、訴訟の段階でも、攻撃、防禦の方法として、新な事実上の主張がゆるされないものではない。」(最高裁昭和33年(オ)第567号同35年12月20日第三小法廷判決・民集第14巻14号3103頁)
「登録無効審判の審決の取消訴訟において、係争の法条違反とは別個の登録無効事由を主張して争い得ないが、・・・、その審理の範囲を、審決が結論の基礎とした特定事項の判断またはその判断の過程に違法があるか否かの点に限定するのは、相当でない」(最高裁昭和39年(行ツ)第62号同43年4月4日第一小法廷判決・民集第22巻4号816頁)。
メリヤス編機事件では、以下の理由で、上記の各判例を変更しました。
特許無効審判の審決取消訴訟において、特定の公知事実との対比における無効の主張と、他の公知事実との対比における無効の主張とは、それぞれ別個の訴訟物をなすと解される。さらに、確定審決の一事不再理(特許法167条)の効力の及ぶ範囲を同一事実及び同一証拠による審判の請求に限定しているのは、確定審決に対し、そこにおいて現実に判断された事項につき対世的な一事不再理の効果を付与したものと考えられるから、審決の取消訴訟においても、その審理範囲は審決で現実に判断された具体的事項に限定するのが相当である。(参考文献:最高裁判所判例解説 民事篇 昭和51年度37頁)
これに対し、シェトワ事件では、不使用取消審判の審決取消訴訟における当該登録商標の使用の事実の立証は、同じ訴訟物に対する立証の時期の問題であり、原則通り、事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるとしました。(参考文献:最高裁判所判例解説 民事篇 平成3年度253頁)
以上から、シェトワ事件が原則であり、メリヤス編機事件が例外です。