知財業界の旬な話題について、独自の視点で、一話完結形式で記しています。
  • 第37話

     今回は、部分意匠とその類似について解説します。

     従来、「物品」とは市場で流通する有体物であり、独立して取引の対象となり得ない物品の部分は、意匠法上の「物品」ではないものとして扱われ、物品の部分に係る意匠は保護対象とはなっていませんでした。

     しかし、独創的で特徴ある部分を取り入れつつ意匠全体で侵害を避ける巧妙な模倣が増加し、十分にその投資を保護することができないものとなっていたことから、平成10年改正で物品の部分に係る意匠も保護対象となるようにしました(工業所有権法逐条解説)。

     この部分意匠の類似について、裁判所は、以下のように判示しました。

     部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものであることに照らせば,部分意匠の類否判断において,意匠登録に係る部分とそれに相当する部分の位置等の差異については,部分意匠制度の趣旨を没却することがないようにしなければならず,破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,通常考え得る範囲での位置等の変更など,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない(知財高裁平成18年(行ケ)第10317号同19年1月31日判決)。

     本意匠が全体意匠、関連意匠登録出願が部分意匠の場合の類似については、知財高裁令和6年(行ケ)第10108号同7年5月29日判決が参考になります。本件訴訟は、意匠法3条1項3号違反による拒絶査定不服審判(不服2023-19811号)に対する審決取消し訴訟です。

     本願意匠は、意匠に係る物品である包装用容器の一部であるいわゆるフランジ部分であるところ、本意匠(本件登録意匠)は、意匠に係る物品である収納容器全体であるから、両者はその「用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲」並びに形状等において大きく異なるものである。そうすると、本願意匠は、本意匠と類似するものであるとはいえず、関連意匠として意匠法10条1項による登録を受けることはできない。

     次に、引用意匠である本件登録意匠は、本願意匠が関連意匠として登録を受けられない以上、意匠法10条2項の適用を受けることができず、本件登録意匠が同法3条1項1号又は2号に該当するに至らなかったものとみなすことはできない。そして、本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は、「包装用容器」と「収 納容器」であって、用途・機能が共通する。また、本願部分と引用部分は、いずれも物品の左右側面における物品外辺の上部約3分の1の位置から物品上端部にかけて設けられたフランジ部であって、主として当該フランジ部上端部、側面視におけるフランジ部、フランジ部下端の隆起後の極端な凹み等において共通の特徴的態様を有するから、形状において類似するものといえる。そうすると、本願意匠は、引用意匠(引用部分)と類似するといえ、同法3条1項3号により、意匠登録を受けることはできない。

     全体意匠である本意匠と、その関連意匠として部分意匠を対比する場合には、本意匠全体と、意匠登録を受けようとする部分とを対比することになるのに対し、本願意匠と公知意匠としての引用意匠を対比する場合は、既に公知となっている引用意匠のうちの一部にでも同一又は類似の部分が含まれている場合には、新規性の欠如(意匠法3条1項1号~3号)を認めるのが相当であるから、本願意匠と引用意匠の一部(引用部分)を対比することになる。このように、一方(本願意匠)が部分意匠であって、他方(引用意匠ないし本意匠)が全体意匠である場合には、本意匠と関連意匠としての本願意匠が類似するかを判断するときと、本願意匠と引用意匠が類似するか(新規性等)を判断するときとで、対比する範囲が異なる。

     以上から、全体意匠を本意匠として、その部分意匠を関連意匠として登録を受けることは原則として認められないことになります。

     特許の場合、先後願関係は特許請求の範囲に記載された発明同士で比較しますが、新規性等については公開された先願明細書等全体と本願特許請求の範囲に記載された発明との比較になります。意匠の場合も同様な考え方になります。

  • 第36話

     今回は、意匠の類似について解説します。

     意匠の類似には、審査段階における類似(意匠法3条1項3号)と権利化後の類似(同法23条、24条2項)があります。

     最高裁判決(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集第28巻2号308頁)によれば、

    1.登録意匠に類似する意匠(意匠法23条)とは、登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠を意味する。

    2.上記から意匠法3条1項3号の類似は、物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とする。

    3.意匠法3条2項は、物品の同一又は類似という制限をはずし、社会的に広く知られたモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とする。

     本最高裁判決では、意匠の類似について、当業者による創作説を否定し、一般需要者による混同説を採用しました。

     しかし、裁判例や実務の一部においては、意匠の類似についてデザイナー等の当業者の視点から評価を行うものもあり、最高裁判例とは異なる判断手法をとるものが混在していることにより意匠の類否判断が不明瞭なものとなっていると指摘されていました(平成18年改正法解説書)。

     そこで、平成18年改正で意匠法24条2項が追加され、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されました。意匠の類否判断の視点を取引者、需要者としている裁判例が多く存在すること等を考慮し、一般需要者ではなく需要者に起こさせる美感の共通性の有無に基づいて判断するものと規定されました(工業所有権法逐条解説)。

     では、「需要者」とは具体的にどのような人でしょうか。これについて、瓦事件(知財高裁令和5年(行ケ)第10008号同5年6月12日判決)が参考になります。本件訴訟は、意匠法48条1項1号(同法3条1項3号違反)による無効審判(無効2021-880006号)に対する審決取消し訴訟です。

     同判決では、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美観に基づいて行われるところ(意匠法24条2項)、本件意匠に係る物品である瓦は、これを施工する建築業者等もその需要者ではあるものの、これを注文し、その所有者等となる屋根工事の施主も重要な需要者であり、建築業者等であっても、最終的には施工後に施主から見た美観の観点を重視するというべきであるから、本件意匠に係る類否判断における需要者の視覚を通じて起こさせる美観の観点については、施工する建築業者のみならず、施工後に施主が重視する美観の観点からも行うべきである。」と判示しました。

     本件訴訟では、意匠法3条1項3号の類否が問題となっているにもかかわらず、意匠法24条2項の規定を根拠に類否判断しているのは論理の飛躍があります。本来ならば、最高裁判例(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集第28巻2号308頁)を根拠にすべきです。

     上記最高裁判例に基づき類否判断をすると、「一般需要者の立場からみた美感の類否」なので、施工する建築業者ではなく、注文し、その所有者等となる屋根工事の施主から見た美観の類否により判断すべきとなります。結論は同じですが、理由付けの根拠が異なります。

     他方、侵害訴訟では、侵害時における類似は意匠法23条、24条2項に基づき判断されます。その訴訟で無効の抗弁が主張された場合、査定時における類似は意匠法3条1項3号に基づき判断されます。共に「一般需要者の立場からみた美感の類否」ですが、時間の推移と共に変わることはあり得ます。

     近年、SNS等の普及により、一般需要者の価値観が短期間に変わることが知られています。このため、侵害時には類似でないが査定時には類似である、あるいはその逆もあり得ます。

     今後、侵害訴訟において「一般需要者の立場からみた美感の類否」が時間の推移と共に変わったことを立証できれば、侵害時と査定時で類否の判断が異なる裁判例が出る可能性があります。

  • 第35話

     日本の音響機器メーカーである株式会社ズームが、米Zoom Video Communications, Inc.(以下Zoom社)及び日本での代理店に対し、オンライン会議システム「Zoom」のロゴが自社のロゴと類似しており、商標権を侵害されたとして、ロゴの使用中止と賠償を求めた訴訟において、4月24日、東京地裁は、Zoom社に約1億6620万円、代理店に約1610万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。ロゴの使用中止は認めませんでした。なお、本件判決は、判決から1月以上経過しているにもかかわらず、最高裁が提供する裁判例検索サイトで公表されていないので、報道機関による報道に基づく解説です。

     株式会社ズームは、電子機器やオーディオ機器の開発や販売を手がける企業で、2005年に「ZOOM」のアルファベット4文字をデザイン化したロゴを出願し、翌年に商標登録されました。

     一方、Zoom社は2011年に米国で設立され、サービス名を表すロゴ「Zoom」をソフトウェアの画面やウェブページに表示しています。

     原告は、被告の行為によって、2019 年 10 月頃よりカスタマサポートの受付電話やメール対応窓口にビデオ会議サービスに関する問い合わせが殺到する状況に陥り、2020 年 6月には、ZVC 社の決算発表を契機に、社名誤認によって株価が2日連続でストップ高を記録し、その後急落する事態に至るなどし、原告の業務上の支障に留まらず、善意の第三者である投資家に損害を与える結果となり、支障が生じている状況から提訴するに至った旨、原告Webサイトで公表していましたが、現在は削除されています。

     判決では、両社とも「ZOOM」や「Zoom」の文字をデザイン化しており、「ズーム」という呼び方や意味内容も同じだと指摘し、「全体的に考えれば、両社のロゴは一応類似するといえる」などとして、Zoom社のロゴがズーム社の商標権を侵害したと認めました。

     ただ、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてZoom社のオンライン会議が普及した結果、2020年7月以降は、一般の利用者が両社を誤認・混同する恐れはなくなったと判断し、過去の商標権侵害に対するライセンス料相当額の支払いをZoom社に命じる一方、ロゴの使用中止は認めませんでした。

     ところで、商標権の保護対象は、商標そのものではなく、商標に化体した業務上の信用です(商標法1条)。これに関し、小僧寿し事件(最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集第51巻3号1055頁)の調査官解説が参考になります。

     「特許権、実用新案権のような権利の場合と、商標権の場合とでは、異なった考慮をする必要がある。すなわち、特許権、実用新案権等の場合には、それ自体が創作的価値を有するものであって、その侵害品は、その性能、効用等において特許権等を利用したものであるから、侵害品の売上げの中には必ず特許権等の対価に該当する部分がある。また、侵害品が売れたということは当該特許権等の実施品についての需要が存在するということを意味するものであるし、そもそも侵害品が販売されているということ自体が、当該特許権等の実施権設定についての需要が存在するということを意味するものといえる。

     これに対して、商標権の場合は、それ自体は創作的価値を有するものでなく、商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付いて初めて一定の価値を有するものである。すなわち、商標を付した商品が売れたからといって、直ちに当該商標が売上げに寄与したということにならないし、商品が売れたということで当該商標についての使用許諾を求める需要が存在するということを意味するものでもない。」(同判決、最高裁判所判例解説 民事篇 平成9年度 (上) 370頁)

     本件訴訟では、被告であるZoom社は米国で設立された法人であり、オンライン会議システムに付されたロゴ「Zoom」は短期間に著名商標となりました。Zoom社が日本において、株式会社ズームの商標のライセンス許諾を受けるメリットはありません。

     しかし、両者のロゴが一般消費者に誤認・混同されて、株式会社ズームが損害を受けたのも事実です。

     そうであれば、株式会社ズームは、ビデオ会議サービスに関する問い合わせが来た段階で、Zoom社に対し、誤認混同防止表示を付すように要請し、Zoom社はソフトウェアの画面やウェブページに株式会社ズームとは無関係である旨表示すべきです。

     株式会社ズームが、Zoom社に対し、誤認混同防止表示を要請しなかったとすれば、一般消費者による誤認・混同は株式会社ズームの責任です。

     株式会社ズームが、Zoom社に対し、誤認混同防止表示を要請したにも関わらず、Zoom社が応じなかったとすれば、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」(民法709条)場合に該当し、一般不法行為が成立します。

     本件は、商標法、特にライセンス料(商標法38条3項)で処理すべき事案ではなく、一般不法行為(民法709条)で処理すべき事案です。本件判決内容からは、裁判官の能力不足を感じます。