弁理士として独立開業し、気付いたことを綴っていきたいと思います。 テーマを決めて、一話完結形式で記していく予定です。
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第12話
第11話では、機能美による意匠について説明しました。この場合、意匠登録の対象である物品について、その機能に着目すれば、実用新案登録の対象になります。
アメリカでは、意匠と実用新案は共に特許制度に組み込まれ、意匠特許、実用特許として保護されます。この両者の関係について、アメリカ特許商標庁は、以下のように説明しています。
「一般的に言えば、『実用特許』は物品の使用方法と機能を保護し(35 USC 101)、一方、『意匠特許』は物品の外観を保護します(35 USC 171)。物品の装飾的外観には、物品の形状・構成、または物品に施された表面装飾、あるいはその両方が含まれます。発明が実用性と装飾的外観の両方にある場合、物品に対して意匠特許と実用特許の両方を取得できます。
実用特許と意匠特許は法的に別個の保護を提供しますが、物品の実用性と装飾性は簡単には分離できない場合があります。製造品は機能的特性と装飾的特性の両方を備えている場合があります。」(https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s1502.html#d0e150263)
以上の説明は、日本でも当てはまります。機能美による意匠を創作した場合は、その機能について実用新案登録出願もすべきです。形状や構成に特徴のある考案を創作した場合は、その形状・構成について、意匠登録出願もすべきです。
意匠と実用新案、両方で権利を取得すれば、権利侵害に対して権利行使した場合、一方は認められなくても、他方で認められる可能性があります。
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第11話
意匠法では、「この法律で『意匠』とは、物品の形状等、建築物の形状等又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」(同法2条1項)と規定しています。
この「美感」とは、何でしょうか。まず、伝統的な装飾美があります。実用品等に装飾を施して、美しく見せるものです。これに対し、第一次大戦後の1919年にドイツのワイマールに設立された造形学校バウハウス(BAUHAUS)で生まれた機能美があります。機能美とは、装飾を排し、機能のみを追求した外形から生まれる美しさです。これが、インダストリアル・デザインの考え方です。ドイツの代表的なインダストリアルデザイナーであるディーター・ラムス氏は、“Less but better”という考え方を提唱しました。装飾を排したデザインが、より良い製品を提供するという考え方です。このディーター・ラムス氏の考え方は、ジョナサン・アイブ氏に影響を与え、iPhoneのデザインを生み出したと言われています。
意匠登録の要件として、「工業上利用することができる意匠の創作をした者は、・・・、その意匠について意匠登録を受けることができる。」(同法3条1項柱書)と規定しています。これは、意匠登録の要件として、工業的に大量生産することができることが要求されることを示します。この「工業上利用することができる」ことは、装飾を排し、機能を追求した機能美を有する製品が、意匠登録の対象になることを示します。
我が国の意匠審査基準に、「視覚を通じて美感を起こさせるものと認められないものの例」として、「機能、作用効果を主目的としたもので、美感をほとんど起こさせないもの」が挙げられています(第Ⅲ部第1章2.4(2))。「意匠」(高田忠著)において、この審査基準の解釈・運用には、議論が必要である旨記載されています(同書86頁)。
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第10話
第9話では、商標登録出願について説明しましたが、今回は審判について説明します。
特許、意匠、商標の各出願をして拒絶査定されても、拒絶査定不服審判を請求できます。この拒絶査定不服審では、特許、意匠、商標のいずれも約7割前後で請求が成立します。この拒絶査定不服審判でも拒絶審決された場合は、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起できますが、約8割前後は審決が維持されます(https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota-info/document/panhu/shinpan_gaiyo.pdf)。このことから、権利化の意思があるのであれば、審査段階で拒絶査定されても、予算が許すならば、拒絶査定不服審判を請求する意義があります。
裁判では、第一審で敗訴した場合、第二審(控訴審)を提起する際に、代理人を変えることも珍しくありません。
産業財産権(特許、意匠、商標)の出願における審査は、いわば第一審であり、拒絶査定不服審判は第二審です。審査で拒絶査定されて審判を請求する際、代理人を変えるという選択肢もあります。ただし、拒絶査定不服審判の請求期間は、査定の謄本の送達があった日から3月以内なので、代理人を変える場合は、査定の謄本送達後、速やかに新しい代理人に依頼する必要があります。
特に、特許出願の拒絶査定に対する審判請求では、審判請求と同時に特許請求の範囲等の補正をすることができます(特許法17条の2第1項4号)。この場合、前置審査で審理されるので(同法162条)、補正の要否を検討するために、査定の謄本送達後、速やかに新しい代理人に依頼する必要があります。