弁理士として独立開業し、気付いたことを綴っていきたいと思います。
テーマを決めて、一話完結形式で記していく予定です。
  • 第14話

     商標や意匠は、たとえ登録していなくても、その侵害に対して不正競争防止法による差止請求や損害賠償請求ができます。

     しかし、不正競争防止法による差止請求や損害賠償請求は、その要件を立証するハードルが高いのに対し、特許庁への登録を要件とする商標権や意匠権は、権利の存在が登録によって立証されます。さらに、損害賠償請求では、故意過失も推定されます。

     「組立家屋」について意匠権を有する意匠権者が、被告の行為が当該意匠権侵害及び不正競争防止法違反に該当する旨訴えた訴訟(東京地裁平成30年(ワ)第26166号令和2年11月30日判決)において、不正競争防止法違反は認められませんでしたが、意匠権侵害は認められました。

     指定商品「オートバイの運搬用台車」について登録商標「バイクリフター」を有する商標権者が、被告の行為が当該商標権侵害及び不正競争防止法違反に該当する旨訴えた訴訟(大阪地裁平成27年(ワ)第547号同29年1月19日判決)において、不正競争防止法違反は認められませんでしたが、商標権侵害は認められました。

     不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要します(知財高裁平成24年(ネ)第10069号同24年12月26日判決)。

     不正競争防止法は、権利の存在を立証するハードルが高いので、商標権や意匠権の登録を怠ると、権利行使が困難となる場合があります。

  • 第13話

     応用美術について、意匠権と著作権の重複適用が認められるか否かという論点があります。

     従来、応用美術が著作物として保護されるためには、表現の創作性が認められるだけでは足りず、純粋美術と同視しうる程度の美術鑑賞性を備えていることが必要であるとする考えが主流でした。

     しかし、知財高裁平成26(ネ)第10063号同27年4月14日判決では、「応用美術につき,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い。」として、応用美術に著作物としての保護を認めました。

     また、「著作権法と意匠法とは,趣旨,目的を異にするものであり(著作権法1条,意匠法1条),いずれか一方のみが排他的又は優先的に適用され,他方の適用を不可能又は劣後とするという関係は,明文上認められず,そのように解し得る合理的根拠も見出し難い。」として、著作権法と意匠法の重複適用を認めました。

     この知財高裁判決は、判例です。「判例」とは、他の事案に適用すべき法律的見解を含んでいる判決をいい、当該事案における量刑理由を判示しただけでは判例ではありません(最高裁昭和26年(あ)第3474号同28年2月12日第一小法廷決定・刑集第7巻2号211頁)。これは、刑事事件の最高裁判例ですが、民事事件であれば、賠償額の理由を判示しただけでは、判例とはいえないことになります。

     ところで、特許法102条2項及び3項(損害の額の推定等)の解釈について、知財高裁大合議事件平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日判決があります。この判決では、侵害者が受けた利益の額は,侵害品の売上高から,追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であるとしています。さらに、本件各特許の技術分野における近年の統計上の平均的な実施料率を考慮して、本件での実施に対し受けるべき料率を認定しています。すなわち、この判決は、賠償額の理由を判示しただけの裁判例であり、判例ではありません。にもかかわらず、大合議事件としているのは、異常です。この大合議判決の1年4か月後、裁判長(知財高裁所長)は、高松高裁長官に栄転しています。

  • 第12話

     第11話では、機能美による意匠について説明しました。この場合、意匠登録の対象である物品について、その機能に着目すれば、実用新案登録の対象になります。

     アメリカでは、意匠と実用新案は共に特許制度に組み込まれ、意匠特許、実用特許として保護されます。この両者の関係について、アメリカ特許商標庁は、以下のように説明しています。

    「一般的に言えば、『実用特許』は物品の使用方法と機能を保護し(35 USC 101)、一方、『意匠特許』は物品の外観を保護します(35 USC 171)。物品の装飾的外観には、物品の形状・構成、または物品に施された表面装飾、あるいはその両方が含まれます。発明が実用性と装飾的外観の両方にある場合、物品に対して意匠特許と実用特許の両方を取得できます。

     実用特許と意匠特許は法的に別個の保護を提供しますが、物品の実用性と装飾性は簡単には分離できない場合があります。製造品は機能的特性と装飾的特性の両方を備えている場合があります。」(https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s1502.html#d0e150263)

     以上の説明は、日本でも当てはまります。機能美による意匠を創作した場合は、その機能について実用新案登録出願もすべきです。形状や構成に特徴のある考案を創作した場合は、その形状・構成について、意匠登録出願もすべきです。

     意匠と実用新案、両方で権利を取得すれば、権利侵害に対して権利行使した場合、一方は認められなくても、他方で認められる可能性があります。