
弁理士として独立開業し、気付いたことを綴っていきたいと思います。 テーマを決めて、一話完結形式で記していく予定です。
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第32話
第7話では、特許明細書を作成する際、発明の効果等を書き過ぎると権利範囲を狭めるとの指摘について解説しました。
発明の進歩性と効果の関係について、裁判例(東京高裁平成14年(行ケ)第460号同16年3月23日判決)では、「発明の進歩性は,原則として客観的な構成により判断されるべきである。その構成により特定の課題を解決しようとすること自体は,つまるところ,発明者の主観的な意図にすぎず,そのような意図の存在をもって特許性を肯定することは,結局,客観的には同じ構成の特許を複数認める結果を招来するものであって,採用することができない。ただし,当該構成のものとしても,当業者が容易に予想も発見もし得ないような効果を発見したときなどに,例外的に,構成自体は容易に推考できる発明にも,特許を認める余地はあろう。」と判示しています。
この発明の進歩性と効果の関係について、最高裁判決(最高裁平成30年(行ヒ)第69号令和元年8月27日第三小法廷判決・集民第262号51頁)は、「化合物の医薬用途に係る特許発明の進歩性の有無に関し当該特許発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定した原審の判断に違法がある」と判示しました。
本判決は、「化合物の医薬用途に係る特許発明の進歩性の有無」という特定の分野に関する判断ですが、基本的な考え方は特許出願の審査における進歩性の判断にも適用できます。
発明の特徴が基本的な構成にあるのか、あるいはその構成による顕著な効果にあるかで明細書の効果の記載の仕方が変わります。
明細書作成に際し、出願時に本件発明の構成が奏する効果として当業者が予測することができるか否か,当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から十分に検討し、そのような顕著な効果があれば、明細書に記載すべきということになります。
現在、特許権侵害訴訟において均等侵害が審理されるようになっています(第23話参照)。本件発明と構成が異なる被疑侵害品に対して均等侵害を認められやすくするため、均等の第2要件(同一の作用効果を奏するもの)を明確化するために本件発明によって得られる有利な効果を記載することは有効と考えられます。均等侵害を認められやすくすることは、権利範囲を広げることにつながります。
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第31話
特許請求の範囲の補正又は訂正における除くクレームについて解説します。
「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう(審査基準第2章3.3.1(4)除くクレームとする補正の場合)。
「除くクレーム」について、知財高裁平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日大合議判決を引用して解説します。
本判決は、「除くクレーム」とする訂正が認められるかどうかを判断する前提として,訂正の要件として特許法が定める「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」について,次のような一般的な判断基準を提示した。
『明細書又は図面に記載した事項』とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう『事項』とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ『明細書又は図面に記載した事項』とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる」。
その上で,次のように判示して,特許出願に係る発明のうち,特許出願時には公開されていなかった先願発明と同一である部分を,いわゆる「除くクレーム」によって除外する訂正を請求する場合についても,一般的な判断基準が適用されることを明らかにした。
「・・・特許権者は特許出願時において先願発明の存在を認識していないから当該特許出願に係る明細書又は図面には先願発明についての具体的な記載が存在しないのが通常であるが,明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても,特許法134条の2第1項ただし書が適用されることに変わりはなく,このような訂正も,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』する訂正であるというべきである。
「除くクレーム」とする補正が本来認められないものであることを前提とする考え方は適切ではない。すなわち「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではない。
したがって,「除くクレーム」とする補正についても当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,最終的に,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになる。
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第30話
法制度について解説します。法制度には判例法と制定法があります。判例法は英米法とも言います。制定法は大陸法とも言い、ローマ法がその起源です。
判例法制度は、先の裁判における判断が後の裁判における判断を拘束する先例拘束が特徴です。
制定法制度における法源は制定法です。判例は制定法を補完するものであり、先例拘束性はありません。
日本は江戸時代までは判例法制度でした。奉行所で裁判を行う際、過去の裁判記録を調べ、同種の事案に準じた判断をしていました。
世界の多くの国は、ヨーロッパ列強によって植民地支配されていた時代があります。そのような国では、独立後、国を近代化する際、旧宗主国の影響を受け易くなります。
日本は、植民地になったことがないので、明治新政府が新たな国家体制を構築する際、ヨーロッパの主要国(イギリス、フランス、ドイツ)を視察し、自らの意思で各国制度を取捨選択して、制定法制度を採用しました。そのような歴史を有するのは、世界中で日本のみです。
その日本における「判例」とは、「他の事案に適用すべき法律的見解を含んでいる」判決をいいます(最高裁昭和26年(あ)第3474号同28年2月12日第一小法廷決定・刑集第7巻2号211頁)。
日本では「判例」に先例拘束性はなく、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(日本国憲法76条3項)。「憲法第76条第3項の裁判官が良心に従うというのは、裁判官が有形無形の外部の圧迫乃至誘惑に屈しないで自己内心の良識と道徳感に従うの意味である。」(最高裁昭和22年(れ)第337号同23年11月17日大法廷判決・刑集第2巻12号1565頁)。