
知財業界の旬な話題について、独自の視点で、一話完結形式で記しています。
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第35話
日本の音響機器メーカーである株式会社ズームが、米Zoom Video Communications, Inc.(以下Zoom社)及び日本での代理店に対し、オンライン会議システム「Zoom」のロゴが自社のロゴと類似しており、商標権を侵害されたとして、ロゴの使用中止と賠償を求めた訴訟において、4月24日、東京地裁は、Zoom社に約1億6620万円、代理店に約1610万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。ロゴの使用中止は認めませんでした。なお、本件判決は、判決から1月以上経過しているにもかかわらず、最高裁が提供する裁判例検索サイトで公表されていないので、報道機関による報道に基づく解説です。
株式会社ズームは、電子機器やオーディオ機器の開発や販売を手がける企業で、2005年に「ZOOM」のアルファベット4文字をデザイン化したロゴを出願し、翌年に商標登録されました。
一方、Zoom社は2011年に米国で設立され、サービス名を表すロゴ「Zoom」をソフトウェアの画面やウェブページに表示しています。
原告は、被告の行為によって、2019 年 10 月頃よりカスタマサポートの受付電話やメール対応窓口にビデオ会議サービスに関する問い合わせが殺到する状況に陥り、2020 年 6月には、ZVC 社の決算発表を契機に、社名誤認によって株価が2日連続でストップ高を記録し、その後急落する事態に至るなどし、原告の業務上の支障に留まらず、善意の第三者である投資家に損害を与える結果となり、支障が生じている状況から提訴するに至った旨、原告Webサイトで公表していましたが、現在は削除されています。
判決では、両社とも「ZOOM」や「Zoom」の文字をデザイン化しており、「ズーム」という呼び方や意味内容も同じだと指摘し、「全体的に考えれば、両社のロゴは一応類似するといえる」などとして、Zoom社のロゴがズーム社の商標権を侵害したと認めました。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてZoom社のオンライン会議が普及した結果、2020年7月以降は、一般の利用者が両社を誤認・混同する恐れはなくなったと判断し、過去の商標権侵害に対するライセンス料相当額の支払いをZoom社に命じる一方、ロゴの使用中止は認めませんでした。
ところで、商標権の保護対象は、商標そのものではなく、商標に化体した業務上の信用です(商標法1条)。これに関し、小僧寿し事件(最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集第51巻3号1055頁)の調査官解説が参考になります。
「特許権、実用新案権のような権利の場合と、商標権の場合とでは、異なった考慮をする必要がある。すなわち、特許権、実用新案権等の場合には、それ自体が創作的価値を有するものであって、その侵害品は、その性能、効用等において特許権等を利用したものであるから、侵害品の売上げの中には必ず特許権等の対価に該当する部分がある。また、侵害品が売れたということは当該特許権等の実施品についての需要が存在するということを意味するものであるし、そもそも侵害品が販売されているということ自体が、当該特許権等の実施権設定についての需要が存在するということを意味するものといえる。
これに対して、商標権の場合は、それ自体は創作的価値を有するものでなく、商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付いて初めて一定の価値を有するものである。すなわち、商標を付した商品が売れたからといって、直ちに当該商標が売上げに寄与したということにならないし、商品が売れたということで当該商標についての使用許諾を求める需要が存在するということを意味するものでもない。」(同判決、最高裁判所判例解説 民事篇 平成9年度 (上) 370頁)
本件訴訟では、被告であるZoom社は米国で設立された法人であり、オンライン会議システムに付されたロゴ「Zoom」は短期間に著名商標となりました。Zoom社が日本において、株式会社ズームの商標のライセンス許諾を受けるメリットはありません。
しかし、両者のロゴが一般消費者に誤認・混同されて、株式会社ズームが損害を受けたのも事実です。
そうであれば、株式会社ズームは、ビデオ会議サービスに関する問い合わせが来た段階で、Zoom社に対し、誤認混同防止表示を付すように要請し、Zoom社はソフトウェアの画面やウェブページに株式会社ズームとは無関係である旨表示すべきです。
株式会社ズームが、Zoom社に対し、誤認混同防止表示を要請しなかったとすれば、一般消費者による誤認・混同は株式会社ズームの責任です。
株式会社ズームが、Zoom社に対し、誤認混同防止表示を要請したにも関わらず、Zoom社が応じなかったとすれば、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」(民法709条)場合に該当し、一般不法行為が成立します。
本件は、商標法、特にライセンス料(商標法38条3項)で処理すべき事案ではなく、一般不法行為(民法709条)で処理すべき事案です。本件判決内容からは、裁判官の能力不足を感じます。
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第34話
4月24日、子供用の椅子(TRIPP TRAPP)の著作権の侵害をめぐってノルウェーの会社と日本の会社が争った訴訟の上告審(最高裁令和7年(受)第356号同8年4月24日第二小法廷判決)で、最高裁は、量産される実用品について著作権侵害が認められるのは例外的な場合だけだとする判断を示し、ノルウェーの会社側の訴えを退けました。
判旨によれば、量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たる。
これを本件についてみると、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。
以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することが でき、所論引用の判例に抵触するものではないとして、上告を棄却しました。
「上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により、上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で、上告を棄却することができる」(民訴法319条)ので、本来、本件は口頭弁論をせずに棄却判決できたはずです。
知財高裁では、本件椅子の著作権侵害をめぐって、著作物性を認める判決(知財高裁平成26年(ネ)第10063号同27年4月14日判決)と認めない判決(原審:令和5年 (ネ)第10111号同6年9月25日判決)がありますが、いずれも結論は請求棄却です。
最高裁は法律審なので、事実認定に誤りがある場合は事実認定の判断手法について判示し、実際の事実認定は原審に差し戻すのが原則です(民訴法325条)。
本件上告審の判決理由を見ると、担当最高裁調査官は、原審が「原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られる」としているのを、「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合に著作物性が認められる」と変更し、本件椅子の著作物性について再度判断させるため差し戻し判決することを予定していたと推察されます。
本件椅子の著作権侵害をめぐって著作物性を認めた判決(知財高裁平成26年(ネ)第10063号同27年4月14日判決)では、本件椅子に著作権を認めても被控訴人椅子とは非類似であることから著作権侵害を認めませんでした。
これに対し、本件上告受理申立てに係る相手方椅子は本件椅子と類似性が高く、本件椅子に著作権を認めると著作権侵害が成立する蓋然性が高くなります。
下級審(地裁、高裁)は、その事案の結論のみに着目して判決理由を記載すれば足りますが、上告審(最高裁)は、その判決が社会に与える影響を考慮して政治的な観点から判断する場合があります。
本件は、外国企業等がその製品の著作権に基づき日本企業を訴えたものです。訴えられた日本企業は例え勝訴しても訴訟に要する弁護士費用や時間を考慮すれば大変な負担です。中小企業であればそれが原因で倒産に追い込まれる可能性すらあります。
量産実用品の著作物性を認めた場合、今後外国企業による同様の訴訟が頻発する可能性があります。そのような訴訟から日本企業を守るには、量産実用品の著作物性を認めず、門前払いする方が産業政策上好ましいと考えられます。
以上から、判決直前に著作物性を認めずに棄却判決する方向に変更したと考えるのが自然です。
担当調査官としては、当初の予定とは異なる判決理由を書かざるを得ず、物足りない判決理由となりました。これを補うために尾島明裁判官が補足意見を付加したと考えられます。
尾島明裁判官は、その経歴(最高裁調査官→内閣法制局参事官→上席調査官→首席調査官)から、現在の最高裁裁判官の中で、唯一自分で判決文を書ける裁判官です。
近年、高裁及び最高裁では、提起された事案を担当部に配てんする際、機械的に配てんするのではなく、各事案の内容にふさわしい担当部(合議体)に配てんする運用を行っているようです。
本件上告受理申立て事件は、その結論がデリートで社会に与える影響も大きいので、現在の最高裁裁判官の中で、唯一自分で判決文を書ける尾島明裁判官の所属する第二小法廷に配てんしたと解されます。
最高裁は、地裁、高裁と異なり、裁判長が主任裁判官(判決文を作成する裁判官)となります。しかし、本件上告受理申立て事件は、尾島明裁判官が実質的な主任裁判官です。
尾島明裁判官の補足意見では、量産品や実用品であっても、例えば、量産品である版画は著作権法10条1項4号により明文で美術の著作物とされているし、茶道具、食器などの実用品にも美術の著作物とされるものがあり得ることから、量産実用品であることをもって直ちに著作物性が否定されることにはならない。美術工芸品は、著作権法2条2項により美術の著作物とされており、一品ずつ制作される実用品でもある工芸品が典型的なものであるが、その定義を確定するよすがとなる規定は法令中に見当たらず、量産実用品でこれに当たるものがないとまではいい切れない。
このように美術工芸品に該当するか否かの外延は必ずしも明確ではないものの、本件椅子が美術工芸品でないことは明らかなので、その該当性の要件を本件で検討する必要はない。
本件上告審判決は、量産実用品が美術の著作物に該当するか否かの一般的な要件を示さず、本件椅子が美術工芸品でないという個別具体的な判断を示したものなので、判例ではなく裁判例です。「判例」とは、他の事案に適用すべき法律的見解を含んでいる判決をいい、当該事案における理由を判示しただけでは判例ではないからです(最高裁昭和26年(あ)第3474号同28年2月12日第一小法廷決定・刑集第7巻2号211頁)。このため、本件最高裁判決を根拠に上告受理申立てをすることはできません(民訴法318条1項)。
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第33話
第27話では、仮想空間(メタバース)における画像の保護に関する著作権法と意匠法の棲み分けについて解説しました。
今回は、アバターの著作権法による保護の可能性について検討します。
「アバター」の定義ですが、ウィキペディアでは、「アバター(avatar)は、コンピュータネットワーク上において、主にコミュニケーションのためにユーザーの「分身」として用いられるキャラクター像のこと。」と記載されています。
この定義を前提とすると、著作権侵害の最高裁判例(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)において、「著作権法上の著作物は、『思想又は感情を創作的に表現したもの』(同法2条1項1号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。したがって、一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。」と判示しています。
この考え方を参考にすると、アバターについても、著作権法によって保護されるのは仮想空間において表現された個々の画像又は映像であり、具体的表現から離れた人物のキャラクターは保護の対象となりません。