弁理士として独立開業し、気付いたことを綴っていきたいと思います。
テーマを決めて、一話完結形式で記していく予定です。
  • 第31話

     特許請求の範囲の補正又は訂正における除くクレームについて解説します。

     「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう(審査基準第2章3.3.1(4)除くクレームとする補正の場合)。

     「除くクレーム」について、知財高裁平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日大合議判決を引用して解説します。

     本判決は、「除くクレーム」とする訂正が認められるかどうかを判断する前提として,訂正の要件として特許法が定める「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」について,次のような一般的な判断基準を提示した。

     『明細書又は図面に記載した事項』とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう『事項』とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ『明細書又は図面に記載した事項』とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる」。

     その上で,次のように判示して,特許出願に係る発明のうち,特許出願時には公開されていなかった先願発明と同一である部分を,いわゆる「除くクレーム」によって除外する訂正を請求する場合についても,一般的な判断基準が適用されることを明らかにした。

     「・・・特許権者は特許出願時において先願発明の存在を認識していないから当該特許出願に係る明細書又は図面には先願発明についての具体的な記載が存在しないのが通常であるが,明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても,特許法134条の2第1項ただし書が適用されることに変わりはなく,このような訂正も,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』する訂正であるというべきである。

     「除くクレーム」とする補正が本来認められないものであることを前提とする考え方は適切ではない。すなわち「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではない。

     したがって,「除くクレーム」とする補正についても当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,最終的に,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになる。

  • 第30話

     法制度について解説します。法制度には判例法と制定法があります。判例法は英米法とも言います。制定法は大陸法とも言い、ローマ法がその起源です。

      判例法制度は、先の裁判における判断が後の裁判における判断を拘束する先例拘束が特徴です。

     制定法制度における法源は制定法です。判例は制定法を補完するものであり、先例拘束性はありません。

      日本は江戸時代までは判例法制度でした。奉行所で裁判を行う際、過去の裁判記録を調べ、同種の事案に準じた判断をしていました。

     世界の多くの国は、ヨーロッパ列強によって植民地支配されていた時代があります。そのような国では、独立後、国を近代化する際、旧宗主国の影響を受け易くなります。

     日本は、植民地になったことがないので、明治新政府が新たな国家体制を構築する際、ヨーロッパの主要国(イギリス、フランス、ドイツ)を視察し、自らの意思で各国制度を取捨選択して、制定法制度を採用しました。そのような歴史を有するのは、世界中で日本のみです。

     その日本における「判例」とは、「他の事案に適用すべき法律的見解を含んでいる」判決をいいます(最高裁昭和26年(あ)第3474号同28年2月12日第一小法廷決定・刑集第7巻2号211頁)。

     日本では「判例」に先例拘束性はなく、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(日本国憲法76条3項)。「憲法第76条第3項の裁判官が良心に従うというのは、裁判官が有形無形の外部の圧迫乃至誘惑に屈しないで自己内心の良識と道徳感に従うの意味である。」(最高裁昭和22年(れ)第337号同23年11月17日大法廷判決・刑集第2巻12号1565頁)。

  • 第29話

     国境を越えた産業財産権の侵害について解説します。まず、商標権侵害と特許権侵害を明確に分けて考える必要があります。

    ・商標権侵害では、

    • 共同勧告において、インターネット上の標識の使用は、メンバー国で商業的効果を有する場合に限り、当該メンバー国における使用を構成するとされていること(共同勧告2条)(すしざんまい事件:知財高裁令和6(ネ)第10031号同6年10月30日判決)
    • 商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。(小僧寿し事件:最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁)

    ・特許権侵害では、

    • 本件配信による本件システムの構築は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程としてされ、我が国所在の端末を含む本件システムを構成した上で、我が国所在の端末で本件各発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。(ドワンゴvsFC2事件:最高裁令和5年(受)第2028号同7年3月3日第二小法廷判決)
    • 特許権、実用新案権等の場合には、それ自体が創作的価値を有するものであって、その侵害品は、その性能、効用等において特許権等を利用したものであるから、侵害品の売上げの中には必ず特許権等の対価に該当する部分がある。また、侵害品が売れたということは当該特許権等の実施品についての需要が存在するということを意味するものであるし、そもそも侵害品が販売されているということ自体が、当該特許権等の実施権設定についての需要が存在するということを意味するものといえる。(小僧寿し事件の最高裁判所判例解説 民事篇 平成9年度 (上) 370頁)