第13話

 応用美術について、意匠権と著作権の重複適用が認められるか否かという論点があります。

 従来、応用美術が著作物として保護されるためには、表現の創作性が認められるだけでは足りず、純粋美術と同視しうる程度の美術鑑賞性を備えていることが必要であるとする考えが主流でした。

 しかし、知財高裁平成26(ネ)第10063号同27年4月14日判決では、「応用美術につき,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い。」として、応用美術に著作物としての保護を認めました。

 また、「著作権法と意匠法とは,趣旨,目的を異にするものであり(著作権法1条,意匠法1条),いずれか一方のみが排他的又は優先的に適用され,他方の適用を不可能又は劣後とするという関係は,明文上認められず,そのように解し得る合理的根拠も見出し難い。」として、著作権法と意匠法の重複適用を認めました。

 この知財高裁判決は、判例です。「判例」とは、他の事案に適用すべき法律的見解を含んでいる判決をいい、当該事案における量刑理由を判示しただけでは判例ではありません(最高裁昭和26年(あ)第3474号同28年2月12日第一小法廷決定・刑集第7巻2号211頁)。これは、刑事事件の最高裁判例ですが、民事事件であれば、賠償額の理由を判示しただけでは、判例とはいえないことになります。

 ところで、特許法102条2項及び3項(損害の額の推定等)の解釈について、知財高裁大合議事件平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日判決があります。この判決では、侵害者が受けた利益の額は,侵害品の売上高から,追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であるとしています。さらに、本件各特許の技術分野における近年の統計上の平均的な実施料率を考慮して、本件での実施に対し受けるべき料率を認定しています。すなわち、この判決は、賠償額の理由を判示しただけの裁判例であり、判例ではありません。にもかかわらず、大合議事件としているのは、異常です。この大合議判決の1年4か月後、裁判長(知財高裁所長)は、高松高裁長官に栄転しています。