第11話
意匠法では、「この法律で『意匠』とは、物品の形状等、建築物の形状等又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」(同法2条1項)と規定しています。
この「美感」とは、何でしょうか。まず、伝統的な装飾美があります。実用品等に装飾を施して、美しく見せるものです。これに対し、第一次大戦後の1919年にドイツのワイマールに設立された造形学校バウハウス(BAUHAUS)で生まれた機能美があります。機能美とは、装飾を排し、機能のみを追求した外形から生まれる美しさです。これが、インダストリアル・デザインの考え方です。ドイツの代表的なインダストリアルデザイナーであるディーター・ラムス氏は、“Less but better”という考え方を提唱しました。装飾を排したデザインが、より良い製品を提供するという考え方です。このディーター・ラムス氏の考え方は、ジョナサン・アイブ氏に影響を与え、iPhoneのデザインを生み出したと言われています。
意匠登録の要件として、「工業上利用することができる意匠の創作をした者は、・・・、その意匠について意匠登録を受けることができる。」(同法3条1項柱書)と規定しています。これは、意匠登録の要件として、工業的に大量生産することができることが要求されることを示します。この「工業上利用することができる」ことは、装飾を排し、機能を追求した機能美を有する製品が、意匠登録の対象になることを示します。
我が国の意匠審査基準に、「視覚を通じて美感を起こさせるものと認められないものの例」として、「機能、作用効果を主目的としたもので、美感をほとんど起こさせないもの」が挙げられています(第Ⅲ部第1章2.4(2))。「意匠」(高田忠著)において、この審査基準の解釈・運用には、議論が必要である旨記載されています(同書86頁)。