第21話

 企業がブランド戦略を策定する際、その中心となるのが商号と商標です。

 会社は、その名称を商号とします(会社法6条1項)。

 商標とは、文字、図形、記号等であって、商品又は役務について使用をするものいいます(商標法2条1項)。

 価値あるブランドの構築は一朝一夕にできるものではなく、長期間に亘る不断の努力が必要です。ブランド戦略における商号や商標の重要性を示す事例を紹介します。

・事例1(商号):レナウンは、かつては売上高で日本一となったアパレル大手でしたが、2020年に経営破綻しました。その主力事業をオッジ・インターナショナルが引き継いで、社名を「レナウン」に変更しました。

・事例2(商標):日本航空のシンボルマークは鶴丸で、長きに亘って使用されてきました。2002年に、日本エアシステムとの統合時に新デザインへ移行し、一時、消滅しました。しかし、2010年1月の経営破綻後、経営再建を託された稲盛和夫氏(京セラ会長)が原点回帰の意を込めて鶴丸を復活させました。

・事例3(商標):DUNLOPは、イギリスを発祥とするゴム、タイヤのブランドです。日本では、住友ゴム工業が商標権を有しています。住友ゴム工業は、Goodyear社より、欧州・北米・オセアニア地域における四輪タイヤのDUNLOP商標権等を526百万米ドル(826億円)で取得すると発表しました。この商標権取得により、一部の地域や商材を除き住友ゴム工業がグローバルにDUNLOPブランドでタイヤ事業の展開が可能になるとのことです。

・事例4(商標):スコットランドでは、蒸留所の名を冠したシングルモルトウイスキーがあります。サントリーのウイスキー「山崎」は、同社の山崎蒸溜所のモルトウイスキーだけでつくられた国産初のシングルモルトウイスキーです。この名称が一般的な氏でもあることから、発売当初は商標を出願しませんでした。販売実績を積んだ1994年に出願、拒絶査定に対する審判を経て、商標法3条2項(使用による識別性の獲得)によって1999年に登録が認められました。シングルモルトウイスキーの個性を主張する上でも、ブランドイメージを確立する上でも、蒸溜所の名を冠した商品名を商標登録することは重要でした。

 近年、歴史ある大手の会社がアルファベット数文字による新社名に変更する事例があります。そのような場合、新社名を見ても何の会社か分からず、旧社名を見て「あの会社か」と分かる場合もあります。そのような会社の中には、新社名のテレビCMを大々的に行っている会社もあります。

 「ブランドは広告でつくれない」(アル・ライズ、ローラ・ライズ 共著、2003年)という名著があります。その中で、「根本的な問題は、広告における信頼性の問題だ。どんなに作品がクリエイティブであっても、どんなに媒体選択が適切であっても、広告は信頼性の欠如という壁にぶちあたる。」(p.119)と指摘しています。さらに「ブランド構築に関する限り、広告は時代遅れになってしまったのだ。いまやブランドを構築するのはマスコミが発する情報だ。」(p.151)と指摘しています。