第16話

 メリヤス編機事件(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集第30巻2号79頁)とシェトワ事件(最高裁昭和63年(行ツ)第37号平成3年4月23日第三小法廷判決・民集第45巻4号538頁)とは、矛盾するのではないかという指摘があります。矛盾するとすれば、いずれが原則でいずれが例外かということになります。

 従来の最高裁の判断は、「原審が事実審である以上、審判の際主張されなかつた事実、審決庁が審決の基礎としなかつた事実を、当事者が訴訟においてあらたに主張することは違法ではない」(最高裁昭和26年(オ)第745号同28年10月16日第二小法廷判決・集民10号189頁)。

 「本件審判における争点に関する限り、訴訟の段階でも、攻撃、防禦の方法として、新な事実上の主張がゆるされないものではない。」(最高裁昭和33年(オ)第567号同35年12月20日第三小法廷判決・民集第14巻14号3103頁)

 「登録無効審判の審決の取消訴訟において、係争の法条違反とは別個の登録無効事由を主張して争い得ないが、・・・、その審理の範囲を、審決が結論の基礎とした特定事項の判断またはその判断の過程に違法があるか否かの点に限定するのは、相当でない」(最高裁昭和39年(行ツ)第62号同43年4月4日第一小法廷判決・民集第22巻4号816頁)。

 メリヤス編機事件では、以下の理由で、上記の各判例を変更しました。

 特許無効審判の審決取消訴訟において、特定の公知事実との対比における無効の主張と、他の公知事実との対比における無効の主張とは、それぞれ別個の訴訟物をなすと解される。さらに、確定審決の一事不再理(特許法167条)の効力の及ぶ範囲を同一事実及び同一証拠による審判の請求に限定しているのは、確定審決に対し、そこにおいて現実に判断された事項につき対世的な一事不再理の効果を付与したものと考えられるから、審決の取消訴訟においても、その審理範囲は審決で現実に判断された具体的事項に限定するのが相当である。(参考文献:最高裁判所判例解説 民事篇 昭和51年度37頁)

 これに対し、シェトワ事件では、不使用取消審判の審決取消訴訟における当該登録商標の使用の事実の立証は、同じ訴訟物に対する立証の時期の問題であり、原則通り、事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるとしました。(参考文献:最高裁判所判例解説 民事篇 平成3年度253頁)

 以上から、シェトワ事件が原則であり、メリヤス編機事件が例外です。