第8話

 第7話に引き続き、特許明細書の記載について説明します。

 特許明細書を作成する際、発明者の作成した提案書に対して、弁理士や特許技術者が知ったかぶりをして新たな情報を付け加える場合があります。

 [参考資料]の「特許発明の技術的範囲とその解釈について」の裁判例2(マキサカルシトール事件)は、均等論が適用された事例です。これによって、特許発明の技術的範囲(特許法70条)が、特許請求の範囲よりも広く解釈されました。

 上記裁判例の最高裁判例の調査官解説を見ると、「本判決の説示からすれば、仮に、本件明細書に、トランス体をシス体に転換する工程の記載など、出発物質等をトランス体のビタミンD構造のものとする発明が開示されているとみることができる記載があったならば、均等の主張が許されない特段の事情が存するとされた蓋然性が高かったようにも思われる。」(「法曹時報」平成29年12月号213頁)との記載があります。すなわち、本件明細書作成者が、知ったかぶりをしてこのような情報を付加していたならば、均等論は認められなかった可能性が高いことになります。

 ところで、民事系の最高裁判例には、「民集」と「集民」とがあります。「民集」が公式の最高裁判例で、「集民」は裁判所の内部資料として作成されたものです。

 最高裁の判決は、最高裁裁判官が直接書くのではなく、「最高裁判所調査官」と呼ばれるエリート裁判官が原案を作成し、最高裁裁判官が加筆修正します。

 「民集」については、月刊誌「法曹時報」に、その最高裁判決の原案を作成した調査官による「最高裁判所判例解説」が掲載されます。このため、別名「調査官解説」とも呼ばれます。これを年毎にまとめて製本したのが、「最高裁判所判例解説 民事篇」です。

 最高裁の判決文は、比較的簡潔であり、その解釈には幅があります。それを補うのが、「最高裁判所判例解説」です。「最高裁判所判例解説」は、最高裁判例(民集)の最高裁による実質的な公式注釈です。このため、最高裁判例(民集)は、必ず「最高裁判所判例解説」を参照しながら読む必要があります。しかし、多くの弁理士は、「最高裁判所判例解説」の存在すら知らないのが現状です。