第36話

 今回は、意匠の類似について解説します。

 意匠の類似には、審査段階における類似(意匠法3条1項3号)と権利化後の類似(同法23条、24条2項)があります。

 最高裁判決(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集第28巻2号308頁)によれば、

1.登録意匠に類似する意匠(意匠法23条)とは、登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠を意味する。

2.上記から意匠法3条1項3号の類似は、物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とする。

3.意匠法3条2項は、物品の同一又は類似という制限をはずし、社会的に広く知られたモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とする。

 本最高裁判決では、意匠の類似について、当業者による創作説を否定し、一般需要者による混同説を採用しました。

 しかし、裁判例や実務の一部においては、意匠の類似についてデザイナー等の当業者の視点から評価を行うものもあり、最高裁判例とは異なる判断手法をとるものが混在していることにより意匠の類否判断が不明瞭なものとなっていると指摘されていました(平成18年改正法解説書)。

 そこで、平成18年改正で意匠法24条2項が追加され、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されました。意匠の類否判断の視点を取引者、需要者としている裁判例が多く存在すること等を考慮し、一般需要者ではなく需要者に起こさせる美感の共通性の有無に基づいて判断するものと規定されました(工業所有権法逐条解説)。

 では、「需要者」とは具体的にどのような人でしょうか。これについて、瓦事件(知財高裁令和5年(行ケ)第10008号同5年6月12日判決)が参考になります。本件訴訟は、意匠法48条1項1号(同法3条1項3号違反)による無効審判(無効2021-880006号)に対する審決取消し訴訟です。

 同判決では、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美観に基づいて行われるところ(意匠法24条2項)、本件意匠に係る物品である瓦は、これを施工する建築業者等もその需要者ではあるものの、これを注文し、その所有者等となる屋根工事の施主も重要な需要者であり、建築業者等であっても、最終的には施工後に施主から見た美観の観点を重視するというべきであるから、本件意匠に係る類否判断における需要者の視覚を通じて起こさせる美観の観点については、施工する建築業者のみならず、施工後に施主が重視する美観の観点からも行うべきである。」と判示しました。

 本件訴訟では、意匠法3条1項3号の類否が問題となっているにもかかわらず、意匠法24条2項の規定を根拠に類否判断しているのは論理の飛躍があります。本来ならば、最高裁判例(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集第28巻2号308頁)を根拠にすべきです。

 上記最高裁判例に基づき類否判断をすると、「一般需要者の立場からみた美感の類否」なので、施工する建築業者ではなく、注文し、その所有者等となる屋根工事の施主から見た美観の類否により判断すべきとなります。結論は同じですが、理由付けの根拠が異なります。

 他方、侵害訴訟では、侵害時における類似は意匠法23条、24条2項に基づき判断されます。その訴訟で無効の抗弁が主張された場合、査定時における類似は意匠法3条1項3号に基づき判断されます。共に「一般需要者の立場からみた美感の類否」ですが、時間の推移と共に変わることはあり得ます。

 近年、SNS等の普及により、一般需要者の価値観が短期間に変わることが知られています。このため、侵害時には類似でないが査定時には類似である、あるいはその逆もあり得ます。

 今後、侵害訴訟において「一般需要者の立場からみた美感の類否」が時間の推移と共に変わったことを立証できれば、侵害時と査定時で類否の判断が異なる裁判例が出る可能性があります。